⑶グループ主義を制御する客観的評価システムの種類と長所・欠点

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記事の目次

①集団欲とそれを制御する客観的評価システム

この集団欲とそれを制御する客観的評価システムというものが人類社会にどう深く影響を与えていくかは、人類の成り立ちから考慮していく必要があります。

鋭い牙も爪も持たない人類が他の大型獣に打ち勝って生存できたのは、集団を形成することで初めて獰猛で強靭な獣と拮抗し、凌駕する術を得たからで、その本能として集団欲が深く根付きました。

人類は肉食獣的な個々もしくは一家族を単位とするよりも、草食獣的な集団を単位として生存競争を潜り抜けて社会的動物であり、集団や群れこそ実態とも言えます。

外部に攻撃対象を置くことによって、集団は内部の結束を強めます。内部の結束を強めることでさらに外部への攻撃は強くなります。この循環を繰り返し、集団はより強固なものとなっていきます。

しかし、これらが原始時代の肉食獣など他の動物に対して発動するのならともかく、人類が長い期間をかけてこれらの敵に対してほぼ克服し、もしくは生存において優位な立場になった時、つまり人類の人口が大幅に増え、他の多数の動物の中の孤立した集団ではなく、人間同士の集団が接し合うようになると、人類の集団の攻撃対象は人類の集団同士になってしまいます。

人類の集団同士の争いの中、集団は村を、村は小国をそして公(おおやけ)としての国を形成していきます。

国を支配する一族やグループは当然、特権や利益を得又差配する権限を所有することになります。これらは主に武力によって獲得されたもので当然に他の別グループによって同様に武力によって覆すことも可能となります。

実際にそうやって長い間中国は王朝と王朝の間に何百年という内乱の時代を必然のように含有し、王朝時代期間内にも常に政権内の武力的な紛争を抱え込んで行きます。

グループ同士、集団同士の争いは当然に公(おおやけ)としての国の力を落とし、属する個の人々の不幸に直結します。

内乱の時代は人口が激減します。生存するのが極めて困難な悲惨な社会となります。

つまり、原始時代のように人口が少数でそれぞれ孤立した集団しかない時ならともかく、人口が増加して多数の集団が融合した公(おおやけ)が構築されると公(おおやけ)内の 利権を巡って、しかも公(おおやけ)全体の公益を蔑ろにしながら、集団同士が争う傾向が非常に強くなります。

これをを避けるためには、公益と個また公益と集団を直接リンクさせる特別な仕組みが必然となります。

その仕組みがないと 、人類の歴史上、極めて長期間生存本能として強く機能し、実際他の肉食獣に対して有効に役目を果たしてきた集団欲が、原始時代を脱した時代においては、個と集団を密接にリンクさせ、公と個、公と集団のリンクを蔑ろにしてしまう結果となってしまいます。

その仕組みが客観的評価システムというものになります 。客観的評価システムというものには、公と個・集団それぞれと直接リンクさせていく働きがあるからです。

②客観的評価システムの種類と性質

前述したとおり、客観的評価システムには条件的客観的評価システム結果的客観的評価システムに分かれます。条件的客観的評価システムはその知識・技能があることが社会・公(おおやけ)に利益を生み出すであろうと予測評価するものである一方で、結果的客観的評価システムは実際に公(おおやけ)に利益を生み出した結果に対する評価・報酬制度となります。

 

条件的客観的評価システムには1⃣歩的、原始的なものに科挙があります。

次に、科挙に影響を強く受けた西欧諸国がより社会の利益に沿った評価システムとして作り上げたのが2⃣プロイセン・ドイツから導入された官僚を採用するためのメリットシステムとそれらを裏付けする学歴があります。

そして、それら以上に社会の利益に即した形での3⃣ドイツ・スイスのマイスター制度などを起源としたデンマークなどの全職業に網羅された職業訓練教育制度に裏打ちされた資格・技量認定制度などがあります。

1⃣2⃣3⃣に進む程、質が高いものとなります。)

 

結果的客観的評価システムには

古代ローマ帝国時代における補助兵を25年間勤めればローマ市民権が与えられた制度

現代のシンガポールにおける官僚などの賞与と GDP 成長率とを連動させる制度

現代のイギリスにおける数値指標により業績評価・報酬をするエージェンシー制度

民主主義から派生する政権党の政治に対して多数の国民による選挙における支持率という評価政権を任せるという報酬制度(この報酬制度については⑹民主主義と客観的評価システムの関係で詳しく述べています)

などがあります。

効果としては結果的客観的評価システムの方当然高い形になりますが、条件的客観的評価システムに比較して整備しにくく、運用が難しく、主観的要素が入ると逆効果になったり、報酬が十分でないとあまり効果がなかったりします。

シンガポールでの官僚の給料水準が他国や他の業種に比べて高いのに対して、同様の制度を導入した中国では極めて低く、その差か ら インセンティブの方向性が大きく違ってくることは、腐敗指数が世界的に優秀でアジアで1位の清廉さと言われるシンガポール腐敗・癒着が凄まじい中国とを比較するとよくわかります。

 条件的客観的評価システムは社会の利益・公益との直結度においては、結果的客観的評価システムに比べると劣りますが、整備しやすく運用もしやすい利点があります。

ただ制度が一度定着すると、固定的で硬直化してしまう欠点があります。

科挙が本格的に導入された宋の時代から1000年近くにわたって、根本的な改革がされず、より社会の利益・公益に沿った科目を導入した西欧諸国や日本に近代化・富国化おいて遅れをとり、その結果、植民地化されてしまったことからもそのことは伺えます 。

 

次回⑷客観的評価システムを西欧の歴史1⃣(ローマ帝国)を踏まえて考証

前回⑵古代中世の中国史における科挙制度の役割

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