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⑴最大の敵役、趙国の李牧

『キングダム』のキャラクターの中で最も好きな人物は主人公サイド秦国の最大の敵役となっている趙国の李牧です。

どんな時も穏やかでありながら、確固とした自信を失わず、その能力は中華随一の者とされています。

そんな李牧が646話では初めて心が折れた、失意の姿を見せます。

原因は自身の仕える趙国の王族間の内部争いです。

側近のカイネの不器用でありながら、一途な励ましによって生気を取り戻します。

そして、また大きな活躍へと繋がっていきます。

しかし、歴史的に見ると結果的には李牧は不幸な最期をとげます。

 

⑵カルタゴの将軍ハンニバルとの共通点

これは、古代ローマの時代に活躍したカルタゴの将軍ハンニバルと多くの共通点を見出すことができます。

ハンニバルはローマに、(李牧が秦にしたように)かつてないほどの敗北を味あわせました。戦争後も行政の長として改革の陣頭指揮を取り、カルタゴの経済を建て直し、結果ローマに対し賠償金返済を完遂し、彼は軍人としてのみならず政治家としての手腕の高さも証明しました。

しかし、結果として李牧と同じように母国内の反対派からの讒言を受け、失脚して最終的には不運な最期をとげます。

 

⑶なぜ李牧もハンニバルこのような結果になってしまうのでしょうか?

これは社会的にある一定の規模を越えてしまうと、個の能力では社会システム上の差を覆すことが極めて困難であることを物語っています。

 

ハンニバルは悉くローマとの戦いに勝利していきます。

そして、ハンニバルの戦略は「ローマの同盟国を裏切らせローマを解体する」ものでした。

しかしこの戦略はなかなかうまくいきませんでした

理由はローマを裏切るメリットがほとんどないからです。

その中でハンニバルは本国カルタゴとの連携も取れず内外から追い詰められていきます。

 

古代のアテネでは奴隷は解放されてもアテネ市民となれることは決してなく、居留外人身分に留められていました。解放した奴隷を市民として迎え入れるということは古代世界では全くなかったと言っていい状態でした。

しかし、ローマでは解放奴隷が才幹次第ではローマ市民を足掛かりにどんどんのし上がるれる身分制でした。

 ローマは一度倒した敵国との関係を良好なものにするために、敵国のエリートに市民権を与え、またローマに貢献した者たち、例えば水道工事や建物の建設に携わる専門家集団の奴隷を一挙に解放し、市民を飛び越えて、騎士の階級まで与えています。

かってローマを苦しめた異民族が、ローマの軍団を率い、ローマの属州を統治し、ローマの元老院に選出されるようになると、彼らの野心は、ローマの安寧を乱すことではなく、ローマの偉大さと安定に貢献することになって行きます。人種や出身地に関係なく、出世が可能で運と才幹次第ではどんどん伸し上がれる当時ではかなり流動的な身分制でした。

被征民を虜にするローマの吸引力の源が、この流動性のある身分制でした。

 

古代中国においても、まだ客観的評価システムが登場していない状態における社会利益におけるシステム的大きな論点は法家と儒教の対比であることは漫画『キングダム』を読んで①で述べていますが、客観性のある法家主義の政治体制を採っている秦が社会利益におけるシステム的に、李牧のいる趙国だけでなく、他の国々に対して極めて優位な位置にあるといえます。

 

どんなに優れた個であっても社会システム上の優位度の差を覆すことは至難の業ということが、この二人の天才的英雄の末路を見ることによって実感できます。

 

 

 

 

 

 

 

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