⑾北欧諸国の近現代史を客観的評価システムの観点から考察

ルター派諸国とは、プロテスタントのルター派の教徒が国の大部分を占める国家で、スウェーデン・デンマーク・ノルウェーなどの北欧諸国を指し、これらの国々は総じて、民主主義指数世界最上位に位置して、安定した民主主義長期間保持しています。

それは民主主義から派生する 結果的客観的評価システムが正常に機能していることを意味しています。

そのシステムがなくても一時期的であれば、民主主義的に高い国家を形成することも可能ですが、先述した通り(詳しくはこちらをクリック)、❶形態の国家から❸形態の国家の状態にすぐに陥ってしまうことから、自由からの逃走という名付けられている❸形態から❷形態の国家への逃走、つまり独裁者や絶対王政における君主などの一人の人物に権限が集中する国家へと移行してしまうからです。

では、長期間において成熟し、安定した民主主義国家を保持し続けているルター派諸国近代史を遡って、考証していきます。

①なぜルター諸国が民主主義指数が世界的最上位の国家を作り上げていけたのか?

カルヴァン派が封建体制と真っ向から対決し、予定説から派生した新しいグループ主義移行により民主主義国家を築いたのに対して、ルター派はカルヴァン派的予定説の教理はなく、封建体制に対しても領邦教会制に見られるように統制を受け入れ、部分的に迎合する傾向がありました。

その環境下で、なぜルター諸国がカルヴァン派諸国を追い抜き、民主主義指数が世界的最上位の、成熟し、長期間安定した民主主義国家を作り上げていけたのか?

鍵となる要素は三つあります。

一つ目は信仰予定説ではなく、信仰義認説が重視されたこと

二つ目はプロテスタント共通の万人祭司主義の考え方

三つ目はカルバン派諸国の民主主義導入後の国力の大幅向上の成功例を目の当たりにしたことです。

 

Ⓐ信仰義認説は、救いはキリストを信じることによってのみ得られるという考え方です。

カトリックは善行によって救われるとするⒷ行為義認説

カルバン派は富が救いの確証の基準となる©信仰予定説が重視されます。

 

Ⓑ行為義認説においては、善行を主観的裁量下で、上層部が判断するため、癒着が著しくなり、封建的ヒエラルキーを堅固にしていく性質があります。

 

©信仰予定説は一つの客観的基準によって判断されるため、封建的ヒエラルキーを崩壊させました。

しかし、その一つの基準が富のため、資本主義万能・自由放任主義傾向の社会となり、大企業や財閥などが力を持ち過ぎることになります。

それによって、政府は 弱体化し、大企業などの影響下に置かれてしまい、民主主義が形骸化してしまう傾向にあります。

 

それら二つの説の欠点から、Ⓐ信仰義認説は救いの基準をただ信じるという誰もができる行為に定めることによって、距離を持たせることができるのです。

信仰義認説に加えて、万人祭司主義の考え方によって、平等思想の考え方や上層部に思考回路を委ねずに各個人が判断し、決定していくという民主主義的考え方の基盤が出来てきます。

 

その状況で、カルバン派が起点となって、イギリス・アメリカなどが民主国家となり、国力を大幅に向上させることに成功します。

それらの国々の外圧がルター派諸国に及ぶようになると、公益を担う責任を負う王は、それらの国々に負けない国力を高めていかないといけないという責任も当然に背負うことになります。

よって、国内における民主主義的要求に進んで協力的であったり、もしくは強く反対しない方針を見せます。

それは、王自体もルター派教徒であることから民主主義的基盤の考え方は当然根付いていることも影響しています。

王太子時代、農奴制廃止など広範な自由主義改革を行ったデンマーク王のフレデリク6世

同じくデンマーク王で革新勢力に好意を寄せ、内閣の組閣を命じ、義務教育改革や軍事費の削減などに注力したクリスチャン9世

協調的で民主的であり、その治世において身分制代表議会廃止と地方自治制、民主主義が全ての面で大きく進行したスウェーデン王であるカール15世

などが代表的であります。

 

つまり、ルター派諸国においては、カルバン派諸国のような下から上をひっくり返す暴力的・革命的な要素は薄く、下からの要求に対し、上が協力的もしくは強く反抗しない対応をしたため、比較的平和裏に、スムーズに民主主義が進行し、民主主義を変質させ、歪めさせる次世代のグループ主義も顕著には形成されませんでした。

 

民主主義の基盤となる平等思想と各個人の判断による決定(自決思想)の考え方が根付いている中、近隣国イギリスなどの成功例によって、民主主義化が国力増大させることの確証が与えられたことによって、民主主義改革がグループ主義移行を顕著に伴わないで、既存のグループ主義を縮小する方向性で進められました 。

これは民主主義だけでなく、民主主義のような社会的大改革がグループ主義移行を伴わずに、グループ主義自体を減少させる大きな鍵となります。

グループ主義移行が必要ないとなると、次世代におけるグループ主義による新しい問題を背負わなくていいのに加えて、改革自体も平和裏に紛争・対立が少ない中でスムーズに行うことができます。

しかし、そのためには近隣に改革による成功例と改革を行う場において改革の基盤となる考え方が全般的に根付いてなければならないという二つの条件が必要不可欠となってきます。

 

 

②世界的にも客観的評価システムが充実し、国民の幸福度・国際競争力がともに世界的に最上位に位置する発展

上層部との強い対立なく、民主主義改革を成し遂げた北欧諸国はロシア支配 に曝されたフィンランド覗いて、全て立憲君主国として王政を存続させました。

但し、グループ主義移行論における次世代のグループ主義が強力に形成されなかったために、日本においては天皇家との姻戚関係を起点とした閨閥が強固な支配層となったのに対し、北欧においては王族に繋がる閨閥がグループ主義的な強い悪影響を及ぼすということもありませんでした。

北欧五党制の中の社会民主党の支持組織である労働組合においても、イギリスのようにグループ主義的に暴走するのでなく、生産性向上と合理化を労使が共有する価値とし、柔軟な労働市場、それを支えるセーフティネットを組み合わせとする積極的労働市場政策を進めて行きます。

政財界の癒着においても、民主主義から派生した結果的客観的評価システムの機能的な作用、企業献金がスウェーデンを始めとし極めて少ないことなどから強固なグループ主義は形成されませんでした。

強固なグループ主義が形成されない中、北欧諸国においては、大きな政府による高福祉、高成長が両立する政策が進められていきます。

北欧における社会保障の充実は年金・医療・介護などの引退世代を対象とするものだけでなく、半分近くは教育・職業訓練・失業保険・育児手当などの現役世代を対象とする者に対して十分に充てられています。

教育は全額無料かつ実学志向が高いもので、学位が職業資格的にみなされる第3段階目の条件的客観的評価システム的要素のもので、労働力率を高めるために女性労働力を活用する社会的制度である出産・育児・保育支援も充実しており、年金は賃金と連動するため、老後を豊かにするために常にスキルアップや転職を意識させる要因となり、失業保険においても勤労インセンティブ要素を色濃くし、豊富な職業訓練と連動させるなど、高福祉を保ちながら、国際競争を勝ち抜き、経済成長していくシステムを構築していきます。

 NPM 的政府の業績評価に関する結果的客観的評価システムにおいてもイギリスやニュージーランドのような小さな 政府を志向しない形で、取り入れられ、民主主義から発生する結果的客観的評価システム職業資格を重視した第3段階目の条件的客観的評価システムを加えた世界的にも客観的評価システムの充実度という点では最上位に位置する環境を北欧諸国は作り上げ、国民の幸福度・国際競争力がともに世界的に同様に最上位に位置するという他国と比較すると理想的ともいえる国家群となっています.

信仰義認説、万人祭司主義の考え方から派生した平等思想と判断を上層部など他人に委ねない自決の精神によって、北欧諸国は格差が少ないながら、国際競争力が高いという異質が共存する発展をして行きます。

 

③平等思想のマイナス面

しかし、平等思想の方向性が少しずつ北欧諸国に影を与えていきます。

外的要素としては、移民・難民の問題があります。難民の画像

当初、スウェーデンなど北欧諸国では平等思想の下、移民・難民を受け入れ、手厚い保護をする傾向にありました。

建国に近い状態であればともかく、既に国が繁栄を一定の度合いで達している状態移民を無制限に受け入れ、市民権など与えることは、古代ローマ帝国においてカラカラ帝がローマ市民権を開放することによりローマ市民のインセンティブを奪い、異民族への寛容の精神が排除の精神に変わり、絶え間ない紛争を引き起こしたように北欧諸国においてもネイティブと移民の対立は徐々に増加して、移民排斥の政党が躍進して行きます。

まさにアメリカにおいて建国当初は制限なく、移民引き受けしていたのを、大国となってからは制限を開始し、ローマ帝国のように国に対する貢献の度合いによって市民権を付与していたのが、オバマ政権時、若い世代の不法移民の強制退去を求めないという政策が、反移民の象徴ともいえるトランプ政権を生み、民族的対立方針が進んだことと類似性を見ることができます。

行き過ぎた移民政策が、犯罪の増加による治安の悪化、移民保護制度の負担による財政破綻のリスクを生み出して行きます。

移民や難民は世界トップクラスの福祉制度や語学・労働研修制度の恩恵を受けることができますが、それに対する感謝よりも、北欧社会における差別に対する不満から暴動などが頻発し、ネイティブの人々も自分たちの福祉制度やリソースが食い物にされていると、お互いに不満を増加させて行きます 。

グループ主義と客観的評価システムの関係について言及したように、集団欲の作用によって、人は誰もが恩は忘れやすいのに対して、仇は骨に刻む傾向にあります。

国においても、人と同じ様に、社会利益主義的な方向性・要素を強く持つ国々を社会利益主義国と規定するとそれらの国々は 社会利益主義者が受ける待遇と同様の余り感謝をされず、それよりもその利益を生み出すために、致し方なく生じざる得ない仇だけが強くデフォルメされることによって、大きな社会的プラスを生み出しているのにも関わらず、憎しみや反感の方をより強く受けてしまうことになります。

ルター派の特性によりグループ主義的対立が少なかった北欧社会が、人道主義的に難民などを引き受けることによって、皮肉にも新しい対立の図式をも引き受けることになってしまいます。

難民のような問題は一国だけで対処することは非常に難しく、国連などの国際機関で世界全体的に対処するのが望ましいといえます。

そうではなく、一国など少数国で対処する場合には、客観的評価システム下での報酬や支援を国連などの国際機関を媒介してされるべきであると思われます。

客観的評価システムの関与がなければ社会利益主義国も社会利益主義者と同じ様に、逆作用の不利益を受け苦境に追い込まれていく可能性が高くなるからです。

 

これらの移民・難民問題のような外的要素からの負の作用に加えて、内的要素の問題点として、平等思想の影響での格差の少なさが、国際間におけるインセンティブの弱体化に繋がっていることがあります。

他国に比較して、客観的評価システム化整備されている状態や就労インセンティブを損ないにくい失業保険や年金制度など工夫がかなりされてはいますが、如何せん格差の少なさは補いようもなく、アメリカンドリームで代表されるアメリカのような国に比べると、夢がなく、勤労意欲は低くなり、国内の優秀な人材は海外に流出し、海外の優秀な人材はなかなか優遇政策を出しても、基盤が基盤のために限度があり、アメリカのような国に吸収されてしまう形になってしまいます。

また 、いくら客観的評価システムが他国に比べて整備されていても、その報酬が少なければ 、GDP と連動した結果的客観的評価システムにおけるシンガポールと中国の機能度合の差を見てもわかるように、その機能は減弱されたものになってしまいます

平等思想はグループ主義的対立を減少させた大きな要因です。

しかし、その思想から派生した二つの外的・内的要素によって、北欧諸国は高犯罪発生率の社会となり、優秀な人材が流出して経済的・財政的にダメージが蓄積されるようになっています。

 

次回⑿ドイツの近現代史を客観的評価システムの観点から考察

前回⑽アメリカの近現代史を客観的評価システムの観点から考察

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