この本はちょうど正にソフトバンクや孫さんが絶好調の時に、出版された書籍です。

その時分に読むのでなく、今のソフトバンクや孫さんが苦境中の苦境に置かれている時に敢えて読んでみたのは、より客観的に吟味・鑑賞できるのではないかと考えてのことです。

つまり、周りが全肯定している時に全肯定している本を読むのは、極めて全肯定に流されてしまいます。(いくら注意したとしても) 周りが否定的に傾いてきている時に、この本を読むことはより冷静に・公平的に内容について判断できるのではないかと感じたからです。

 

最も印象的に感じた部分は第二部34【天下布武】におけるNTT、総務省とのやりとりです。

日本が世界で2番目のGDPの時、インターネットでは先進国の中で世界一遅く、高いことを孫さんはGDPで2番なのに恥ずかしいと感じ、世界一高い・遅いを世界一安く・高速にしようと志します。

日本のインターネット業界全部の為に、日本のインターネットユーザー全部の為に

デジタル情報革命為に、という志で、

ほとんど儲けを計算せずに、当時のNTTの料金体系の5分の1で、世界最高速、NTTの4倍の速度でアメリカ、ヨーロッパ、中国に比べても世界一安いブロードバンドを提供していきます。
当然のことながら、申し込みが殺到しますが、
NTTサイドが手続き上の問題などで、回線を繋がしてくれません。

孫さんは総務省の担当課長の所に乗り込んでいきます。
独占的にメタル回線を持って、独占的に局所を持ってるNTTが繋いでくれないと。
これもう明らかに独禁法違反で、明らかに手続きがおかしいと。
総務省がそこで責任を逃げちゃいけないんだということでガンガン交渉していきます。
結果的にはその場でじゃあ何をすればいいんですかという話になると、
『簡単だと。別にあんたがえらいわけじゃないけどあんたんとこは許認権の権利を持ってると。
電話1本いれてくれと。フェアにしろと。ただそれだけでいいと。
何をせいと具体的に言う必要はない。ただ単にフェアにしろとその一言でいいと。
その一言だけNTTの社長に電話入れてくれと。

何か金をくれとか、不当にこちらに権利をくれとか、そういう事は一言もわしゃ要求せんと。
フェアにしなさいと、その一言だけ総務省が言えばいいんだ』ということで、
結果電話がされてから、やっと手続きが流れだしたということです。

35の【有言実行】にも書かれていますが、「アメリカの規制とは独占企業を制限して、新規参入組にチャンスを与えることなのに、日本における規制は新規参入を妨げることになってしまっている」という現実があります。

その環境下で、孫さんがその既得権益という岩盤に突破口となる穴を開けてくれたことは、日本経済・国民にとって非常に有難く、恩恵の大きいことといえます。

孫さんは、一代で利益1兆円以上の会社を創り、何万人という雇用を日本に産み出しました。

デジタル情報革命が進められた結果、私たちのインターネット環境は、この10年ほどの間に、とてつもなく改善しました。

それらの功績は正に意志力・信念などの強力な主観力によって生み出されたといえます。(詳しくはこちら

しかし、 組織の規模が大きくなる程、主観力の優位性は客観力・システム力に対して落ちてきます

やはり個の能力には限界があります。(詳しくはこちら

また、組織は規模が大きくなる程、グループ主義を制御するのが困難になります。(詳しくはこちら

それらが現在、ベンチャーキャピタル投資の失敗からのソフトバンクの苦境に繋がっていると思われます。

ベンチャー企業の成長には資金が必要ですが、本来であれば、まずは「ちゃんと利益が上がるビジネスモデル」を構築した上で、そのビジネスを大きく成長させるために資金を使うべきなのですが、ソフトバンクの投資先の多くは、早すぎる段階で資金を潤沢に与えられてしまったため、まともなビジネスモデルを構築せずに突っ走ってしまっている現状です。

アメリカで成功したSBIR(中小企業革新技術研究プログラム)はベンチャーの資金援助される規模の大きさや、フェーズごとに練られた仕組みの中で進められていますが、ソフトバンクグループのベンチャーキャピタルの運用は良くも悪くも孫さんの主観的判断に委ねられている要素が大きいといえます。

孫さんの強さ・良さの主観性・独創性が裏目に出てしまったといえます。

長所と短所は表裏一体といいますが、個人的見解としては、今回の苦境・逆境も過去のものと同様に乗り越えて欲しいと切に思います。

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