条件的客観的評価システムの代表的欠点として結果的客観的評価システム(詳しくはこちら)のコントロールが働かない状態で制度が一度定着すると、それによって創られた組織が固定的に硬直化し、公益に反してグループ主義に特化してしまう性質があります。
条件的客観的評価システムは質の高さに段階(詳しくはこちら)がありますが、その段階ごとに見ていきます。
記事の目次
①第1段階目の科挙について
先ず第1段階目の科挙からです。
科挙の試験自体が一般常識を備えたという条件をクリアしてるかの客観的評価システムでしかなく、高い技術があっても専門家は軽侮される傾向が強く、偉大な発明を行った技術者や科学者が高官に登った例は極めて少なく、書物や前例ばかりを重視して実務に疎くなるという欠点がありました。
そして条件的客観的評価システムである科挙を補填・修正するべき結果的客観的評価システムも欠如していたことから、三年清知府、十万雪花銀という詞がある通りに三年地方官を勤めれば、賄賂などで十万両位は貯めることができるという状態となり、トップの厳しい管理がなければ、腐敗官僚の登竜門的様相を呈することもありました。
科挙及第者を出した家は官戸と呼ばれ、職役などの免除や罪を金であがなうことができるといった数々の特権が与えられました。
科挙によって登場した官僚たちによる新しい支配階級は士大夫と呼ばれました。
一度その制度が確立てしまうとそれをクリアした者たちによる特権階級(士大夫)によってグループ主義が形成され社会の利益とかけ離れて制度が硬直化してしまい進歩しなくなってしまいます。
科挙が本格的に導入された宋の時代から1000年近くにわたっても、根本的な改革がされず、より社会の利益・公益に沿った科目を導入した西欧諸国や日本に近代化・富国化おいて遅れをとり、その結果、植民地化されてしまったことからもそのことは伺えます 。
その間、宋時代に王安石による改革が試みられましたが、徹底的に潰され、王安石自体も悪人政治家の代表的レッテルがその千年以上の間においてはかけられていました。
これら、条件的客観的評価システム下でその条件をクリアした者達によってつくられた特権階級は極めて強固で、反対者・改革者には凄まじい攻撃が与えられます。
②第2段階目のメリットシステムについて
次に、近代西欧諸国や日本において、科挙より社会の利益・公益に沿った科目を導入した第2段階目の条件的客観的評価システムであるメリットシステム(公務員試験)について見ていきます。
近代において導入した代表的国は、イギリス、アメリカ、ドイツ、日本ですが、前二者と後二者は施行された性質上大きく異なります。
前二者の場合は、民主主義から派性する結果的客観的評価システム(詳しくはこちら)が根付いてから、メリットシステムが導入されたケースで、後二者はまだ民主主義から派性する結果的客観的評価システムが根付いていない状態でメリットシステムが導入されたケースです。
つまり、言い換えると、安定した民主主義が築かれてからメリットシステムが導入されたのか、まだ安定した民主主義が築かれてない状態でメリットシステムが導入されたのかということです。
先ず後二者から見ていきます。
ドイツは世界に先駆けて(正確にはプロイセン)メリットシステムを導入した国です。
第2段階目の条件的客観的評価システムであるメリットシステムを世界に先駆けて導入したことによって、遅れて産業革命は行われながら、プロイセンを中心に結成されたドイツ帝国はイギリスを超えるヨーロッパ一の大国として成長して行きます。
官史養成機関としての性格を持つ大学の卒業生に国家試験の形で官史登用試験が実地され、貴族勢力を排除するとともに、優秀な人材を多く供給して行きました。
条件的客観的評価システムの利点として、血縁やコネなど癒着による官僚登用を薄め、優秀な人材が発掘しやすくなって、国力が増強されます。
また、古代・中世の中国史を見ても分かるように、国内の内乱などもメリットシステムより1ランク下の科挙でさえも激減させる効果があります。
しかし、条件的客観的評価システムの欠点は、結果的客観的評価システムと組み合わせなければ、条件的客観的評価システムをクリアした集団によって形成された新しいグループ主義が台頭し、改善がされないままシステムが科挙のように硬直化・固定化してしまうことにあります。
一度固定化してしまうと、それを崩すことは極めて難しくなります。
ドイツにおいても、先にメリットシステムにより出来上がった軍などの官僚組織が支配者層であったユンカーと結びつき、皇帝を中心とした封建制度を支える形が強固になってしまい、イギリスやアメリカのように安定した民主主義を獲得するのは非常に難しい状態となってしまいます。
結局、外圧によって、つまり第1次世界大戦にドイツは敗戦し、戦勝国の指示により、帝制から共和制に移行していきます。
しかし、戦後も軍の力は大きく影響を及ぼします。
ドイツの前身のプロイセンにはカントン制度とメリットシステムの組み合わせにより、(各自独立的な貴族支配)➡(君子を取り巻く軍などの官僚支配)へと支配者層の移行がグループ主義移行論に沿う形でされた歴史があり、それによって強固な軍を中心としたグループ主義支配が根付いてしまって しまい、第1次世界大戦後のように間接支配による外国の圧力が加わろうと、支配を押しのける強固な別のグループ主義がなければ、北欧のようなレアケース(詳しくはこちら)以外では、グループ主義の支配を排除し、安定した民主主義改革を実行するのは非常に困難と言えました。
外圧の直接支配によって、旧支配を排除し、その支配が復活しないようなシステムを構築するしかないと言え、実際、第二次世界大戦後はそうなります。
しかし、第1次世界大戦後には、それはなされず、間接的な指示に留まっており、帝制は廃止され、社会民主党が政権を取りましたが、北欧を見ても分かるように社会民主党はルター派プロテスタント国に特有に中心政党として見られ、カルバン派と違い、反体制を取りにくい性質を持っため、帝国時代の旧支配者層である軍部を中心としたグループ主義は温存されて行きます。
結果、それが影響し、ドイツのヴァイマル共和政では、大統領の指名のみを基礎とする大統領内閣が継続し(つまり、結果的客観的評価システムが派生していない状態)、議会政治の空洞化が起き、ヒトラーのナチス独裁に至ります。
次に日本を見ていきます。
日本の憲政の常道期の政党政治では、一度も総選挙の結果に基づいての政権交代はありませんでした。
首相を選出する権限は元老の意志に委ねられていました。つまり最後の元老と言われた西園寺公望の意思によるものでした。
西園寺ルールでは不可抗力で内閣総辞職に至った場合には、同じ政党から首相が選ばれ、政策に不都合があった場合には、反対党に政権が移るというものです。
このルールにおいては選挙は不要となり、何か問題やスキャンダルがあれば交代のために、政党間の対立攻撃は激化しました。
倒閣を果たした野党が議会の少数派のままで組閣し、与党という有利な条件の下で、総選挙で勝って第一党に躍進するという形式は政権交代の基本形式となりました。
有利な条件というのは、政権交代の度に百人単位で官僚が入れ替わり、自党系の府県知事や警察幹部などが配置され、選挙干渉を行うというものです。
このため、内閣は短命政権でくるくる変わり、民主主義の欠点である金権政治も当然のように蔓延って、国内外問題は山積みなのに、何も解決できない状態が続き、国民の不信感が高まり、軍部独裁へと進んでしまいます。
つまり、結果的客観的評価システムが無ければ、民主主義の欠点、金権政治・衆愚政治だけがクローズアップされ、民主主義は行き詰まる傾向にあるということです。評価する内容、選択する内容がなければ、必然的に衆愚政治にならざる得ないということです。
選挙に行っても、候補者の所属政党の実績、政策、候補者の政治知識、議会でどのような働きを果たしたのかなどが詳しく分からないと、自らの利権に直結する人物に入れるか、主観的なイメージ・人気・知名度なので入れるしかなくなるからです。
かろうじて政権党が行なってきた政治を評価基準に置くことによって、与党系の議員に入れるのか、野党系の議員に入れるのか考慮の上で判断できるのです。
結果的客観的評価システムがない状態で民主主義が進んでしまう例として、フランス革命後の共和制、ドイツのヴァイマル共和制、大日本帝国の憲政の常道期などがありますが、これらは全て衆愚政治を経て、独裁政権に至ってしまっています。
前者二者のイギリス(詳しくはこちら)、アメリカ(詳しくはこちら)は民主主義から派性する結果的客観的評価システムが根付いてから、メリットシステムが導入されたため、それぞれのプラス面を大いに吸収し、それぞれが世界の覇権国として君臨していきます。
結果的客観的評価システムがあるということはフィードバック機能があるということです。
フィードバック機能がなければ、強力な集団欲に裏打ちされたグループ主義(メリットシステムにおいては官僚をコアとしたもの)の凄まじい進撃を止めることはとても無理です。
よって、それは民主主義から派性する結果的客観的評価システムでなくても結果的客観的評価システムであれば良く、その例として明るい北朝鮮といわれるシンガポールがあります。
北朝鮮とシンガポールは同じ一党独裁国家ですが、大きく違うのは、シンガポールの客観的評価システムの量と質の整備度(公務員給与が GDP と連動している結果的客観的評価システムをはじめとして)です。
その整備度は 他の先進国や民主国家に比較しても充実しており、官僚が指導する官僚主義国家でありながら、官僚の弊害、権力の集中においてはアジアの中で最も毒されていない国との評価を得ています。
腐敗認識指数や国際競争力も常に世界最良のトップクラスを維持し、継続した発展により、小国でありながら、世界の最先進国としての地位を築き上げています。(詳しくはこちら)
③第3段階目の条件的客観的評価システムについて
科挙やメリットシステム以上に社会の利益に即した形での第3段階目になる条件的客観的評価システムにドイツのマイスター制度を起源としたデンマーク・スイスなどの全職業に網羅された職業訓練教育制度に裏打ちされた資格・技量認定制度があります。(詳しくはこちら)
スイスではあらゆる職業でライセンスを持っていることが義務付けられています。(デンマークも)➡reading⑸『世界一幸福な国デンマークの暮らし方』を読んでを参照して下さい。
ライセンス所有者は職種による最低賃金が保証され(デンマークも)、経験によって収入が増えていきます。
職業教育を終え、専門職のライセンスを得て、さらに5年以上の実務経験を積み、マイスター試験に合格するとマイスターになります。
スイスは世界で最も国際競争力が高い国の一つ(デンマークも)で、市民の生活満足度が高く、世界幸福地図では第2位(デンマークが1位)です。
ちなみに生涯学習の度合もデンマーク、スイスがそれぞれ1位、2位となっています。
公平に評価するシステムがあるからこそ、ミクロ的個々に学び向上するインセンティブが生まれ、ひいてはマクロ的社会、国全体的にも向上・発展し、そしてミクロ的個々の個々の幸福に繋がるという良循環になるということですね。
しかし、条件的客観的評価システムには第3段階目だろうが、全てにおいて結果的客観的評価システムのコントロールが働かない状態で制度が一度定着すると、それによって創られた組織が固定的に硬直化し、公益に反してグループ主義に特化してしまう性質があります。
第3段階目になる条件的客観的評価システムを導入しているデンマークやドイツ(戦後)ではもちろん民主主義から派性する結果的客観的評価システムが機能しています。
しかし、そのフィードバック的改善作用は間接的なもので直接的なものではありません。
制度にかかる結果的客観的評価システムのフィードバック的改善作用が弱いと、結局の所、程度の差はあっても、制度によって創られた組織が固定的に硬直化し、公益に反してグループ主義に特化してしまう性質があります。
具体的にドイツのマイスター制度について見ていきます。
(制度の利点)
マイスター制度により広範囲に育成された熟練した技術者が各地方に多数供給され、それによってミッテルスタンドと呼ばれる技術水準の高い中小企業層が形成されていきます。
ミッテルスタンドは大半はものづくり企業であり、ドイツ経済のエンジンとも言われ、ユーロ経済圏を牽引する世界一の黒字国であるドイツの稼ぎ出す貿易黒字の七割を占め、ドイツ経済を文字通り支えています。
マイスター制度により技術的に強化されたドイツの中小企業はニッチ分野で世界をリードする技術と品質を 培い、高付加価値製品の国内生産維持して、充実した対外経済の国家的支援もあって、グローバル市場での存在感を高めて行き、大企業の下請けではなく、自立・独立したビジネスモデルを堅持してます。
これらがドイツの強い経済の元となり、ヨーロッパ、EU随一の経済大国としての地位が築かれています。
(制度の欠点)
マイスター制度には業務独占資格としての規制としての側面があります。
条件的客観的評価システムである以上は、制度にしっかりとした結果的客観的評価システムのフィードバック的改善作用が掛かってないと制度によって創られた組織が固定的に硬直化し、公益に反してグループ主義に特化してしまう性質があります。
マイスター制度においても同様で、それが上記側面を不当に強化し、社会利益的にマイナスに作用してしまったためにドイツでは制度の適応する業種を手工業については半減させています。
これらの改革ができること自体、民主主義から派性する結果的客観的評価システムが機能しているを示していますが、さらにスピーディーに、効率的、効果的に(社会利益的観点から見て)作用を発現させるには、より直接的で強い結果的客観的評価システムのフィードバック的改善作用を掛けさせる必要があります。
例えばマイスター制度を管理・運営する組織に対する報酬とGDPなどの公的利益の指標をリンクさせるなどの直接的な結果的客観的評価システムを補足させていくのも一つの方法です。
一度、社会利益から乖離した形で、条件的客観的評価システムによって創られた組織が固定的に硬直化し、グループ主義に特化してしまうと、後々極めて大変です。
条件的客観的評価システムは整備しやすく運用もしやすい利点がありますが、条件をクリアしたものの中でグループ主義的腐敗が進行してしまうリスクが極めて高いので、結果的客観的評価システムの補足(言い換えると条件的客観的評価システムと結果的客観的評価システムの相互補完性)は早め早めに質・量ともに整備していくことが極めて重要であるといえます。