世界中に多くの開発独裁国家があります。
しかし、シンガポール程、最先進国・民主主義国家に決して劣らないレベルで発展し、腐敗認識指数や国際競争力も常に世界最良のトップクラスを維持している国家はありません。
明るい北朝鮮といわれるシンガポールは官僚の弊害、権力の集中にアジアの中で最も毒されていない国との評価(まさにその北朝鮮と対極にある評価)を得ています。
その謎はどこにあるのでしょうか?🙄
それを解く鍵は客観的評価システム(詳しくはこちらをクリック)の整備度合にあります。
まず、シンガポール特有の客観的評価システムとして挙げられるのは、結果的客観的評価システムの一つである公務員給与が GDP と連動しているシステムです。
世界恐慌になった21世紀初頭のリーマンショック時には、 GDP が急落したために公務員給与が大幅に減額され、大統領・首相・閣僚レベル・官僚のトップ・国会議員なども2割近く削減されました。
逆に前年比で15%ほど GDP が増加した年には、上級公務員には8ヶ月分の GDP ボーナスが支給されました。
民間企業の業績とGDP が伸びた時は高い給料が支給され、下がれば支給される給料が減額されます。
そのため、シンガポールの官僚は民間企業の業績を上げ 、GDP を伸ばすために必死になります。
他国と比較すると官僚は非常に高い給料が与えられ、30代前半で2000万以上の給料を手にし、40代半ばでは1億円を超える者もあり、このことがシステムを十分に機能させることに大きく寄与して行きます。
同じシステムをシンガポールを真似て導入した中国においては、官僚の給料が極めて低いため、客観的評価システムの方向性よりも、得る利益が莫大な不正による利益追求の方向性に流れてしまい、機能不全どころか、ゴーストタウンの出現や環境破壊などプラスの作用よりもマイナスの作用の方が大きく、逆効果になってしまったのとは対照的と言えます。
第二に挙げられる客観的評価システムは、条件的客観的評価システムの一つであるメリットシステム(詳しくはこちらをクリック)です。
独裁国家の特有の性質として、政治家・官僚などのパブリックサービスの職業の者が、民主国家と比較すると圧倒的に権限を持ち、重要視されています。
そのため、パブリックサービス分野の人材育成やピックアップに関しては、非常に特化している傾向にあります。
シンガポールにおいても、最も有能な人材をパブリックサービスに就かせるべきだという思想に基づき、人材をその分野に集中させるための待遇面や育成システムが充実しています。
これは民主国家が場合によっては、素人的、ほとんど政治的知識のない大衆政治家が乱立し、時には政治的トップに立ってしまうのとは対照的であり、独裁国家が安定した民主国家よりも 優れている唯一の事柄と言えます。
政治分野は当然として、他の分野においても、シンガポールは人材こそ最大の資源の考えの下、充実した奨学金制度などで国内外から優れた人材を確保します。
大学の研究者や学生の半数をはるかに超える者が国外出身者になり、研究所のトップに欧米のトップクラスの研究者が据えられて行きます。
それらが欧米の企業の拠点をシンガポール誘致するアドバンテージになる等、企業にかかる税率の低さと相まって、全世界的に有力な企業をシンガポールに集めるための大きな役割となり、資源の乏しいシンガポールが人材を最大の資源とし、アジアにおける最先進国としての地位を築いていく大きな要因となります。
第三に挙げられる客観的評価システムは、本来ならば❷の政府形態(詳しくはこちらをクリック)である状況では機能しないものであるはずの民主主義から派生する結果的客観的評価システム(詳しくはこちらをクリック)です。シンガポールは大半をグループ選挙区にしたり、ゲリマンダー的に選挙区割りをしたりすることによって、強力なヘゲモニー政党制を作り出すことにより、事実上一党独裁を保持してきました。
しかし、選挙自体は秘密選挙で不正操作もありません。
投票率も棄権者には罰則規定があるため、90%以上の高率となっています。
つまり、政権党の政治に対する大多数の国民による得票率による評価システムにおいては、政権党が変化しない等、一部機能が欠落しているところがありますが、基本的には成立していることになります。
人民行動党の得票率が下がると、政府は高学歴女性の優遇措置を廃止するなど政策を変更したり、体制の改善処置を行います。
2011年の当時過去最低の得票率の時は、リー・クアンユーは責任を取り、完全引退しました。
リー・クアンユーは偉大な政治家といえますが、当然のことながら欠点もあります。
遺伝的、能力主義を重要視し、世帯収入が低く、学歴の低い母親の避妊手術を奨励する一方、大卒の母親には有給休暇や税金面で優遇措置が与えられ、生まれた子供にはエリート学校への入学が優先的に認められるなど先天的格差を生み出そうとします。
これらは、先述した通り、結果的客観的評価システムの改善・修正機能により政策修正が行われましたが、ギフテッドと発達障害が紙一重という実態からも、先天的能力選別作業よりも、後天的にどうそれぞれ与えられた能力を適材適所に育成し、伸ばしていくかの作業の方が社会の健全的発展のためには必要と言え、先天的能力主義よりも後天的努力主義が重要視されるべきと言えます。
ただ人民行動党の得票率が下がると、それ以外のケースにおいても、一定の改善作業が行われ、場合によってはリー・クアンユーの引退など最終政策決定者の責任対応も取られて行きました。
これは同じ❷の政府形態であるロシアのプーチン政権において不正選挙が蔓延し、結果的客観的評価システムがほとんど機能せず、改善機能が働かなかったこととは対照的と言えます。
共産主義など独裁政権においては、通常は機能する客観的評価システムは条件的客観的評価システムであるメリットシステムだけです。
しかも、時間の経過とともに、腐敗・癒着を伴うグループ主義形成がされ、その機能さえも低下して行きます。
シンガポールでは、メリットシステムだけではなく 、GDP と連動したものや政権党に対する得票率によるもの等の結果的客観的評価システムも機能するため、メリットシステムの時間経過による機能低下も防御でき、総合的複数の客観的評価システムの量と質の整備度は、 他の先進国や民主国家に比較しても充実しており、官僚が指導する官僚主義国家でありながら、官僚の弊害、権力の集中にアジアの中で最も毒されていない国との評価を得ており、腐敗認識指数や国際競争力も常に世界最良のトップクラスを維持し、継続した発展により、小国でありながら、世界の最先進国としての地位を築き上げました。