歴史的に見て、大体の国々は国力が増大した国を右倣え右的に模倣する傾向にあります。
イギリスの産業革命しかり、ドイツのメリットシステムしかりです。
よって民主国家が独裁国家にならないためには、民主国家が独裁国家よりも国力的観点から見て、常時、どの面においても優位性を保っていれば、自然に独裁国家➡民主国家の流れができ、民主国家➡独裁国家の流れは余程の外的介入がない代わり起こり得ない状態となります。
つまり、ドイツの社会心理学者であるエーリヒ・フロムが表現した自由からの逃走といわれる民主国家➡独裁国家の動きを抑えるにはⒶ民主国家の独裁国家に対するマイナス面、Ⓑ独裁国家の民主国家に対するプラス面、この二点を主軸にして民主国家の独裁国家に対する国力的観点からの優位性を保たせることが解決策といえます。
先ず、Ⓐ民主国家の独裁国家に対するマイナス面に関して考察していきます。
これは政治形態についての記事(詳しくはこちら)で述べていますが、民主国家が民主主義から派生する結果的客観的評価システム(詳しくはこちら)を獲得できなかった場合、つまり❶形態の結果評価を背負うシステムを築けなかった場合、❷形態で背負う君主などは既に消失している為、実質的には背負う存在がない❸形態に陥ってしまいます。
民主国家が民主主義から派生する結果的客観的評価システムがない場合は❷形態の独裁国家よりも政治形態の質的には劣ってしまうということです。
その例としては古代ギリシャの民主政、共和政ローマ、フランス革命直後の共和政、近世ポーランドの貴族民主主義、ドイツのワイマール共和国、大日本帝国の憲政の常道などが挙げられます。
これらは、それぞれ元々❷の形態であった時よりも、社会は混乱し、争いが満ち、貧困や不幸が倍増してしまいます。
公益の結果評価を背負う存在がないため、問題点が噴出しても、改革が滞ってしまいます。
その結果、当然のことながらグループ主義が蔓延し、それがさらに紛争を生み、それによってさらにそれぞれが身を守るために、誰もがグループ主義に邁進してしまう悪循環に陥ります。
共和制ローマにおける内乱の一世紀、近世ポーランドの大洪水時代からのポーランド分割、戦前日本の東北を中心とした農村部の荒廃と身売りの常態化など民主主義が進行することによって、逆に社会はマイナスの方向に進んでしまいます。
民主国家が優れてる要素は、そこから派生する結果的客観的評価システムの苗床としてであり、それが育たなかった場合、逆に大きな不幸を社会にもたらす結果になってしまいます。
直接民主制のアテナは、民主主義の度合いで言えば、高いとも言えますが、好戦的なデマゴーグによるポピュリズム的衆愚政治により国力が低下し、対極の政治体制であるのスパルタの軍門に下ります。
イギリスよりも先駆けて準立憲君主制、議会制民主主義を実践したポーランドは、選挙権を持つ率は人口の1割を超え、数百年後の19世紀のイギリス・アメリカよりも高い状態でした。
しかし、全会一致の原則などによって結果的客観的評価システムが成立不可能であったため、❷形態の君主制の下ではヨーロッパで最も広大かつ多くの人口を抱える大国の一つ であったポーランドは、大洪水時代における破滅的な内外問わない一連の紛争・戦争の結果、人口の1/3を失い、大国の地位を失います。
そればかりか、隣接するロシア帝国・プロイセン王国・オーストリアの❷形態の君主制の三強国によって、何度も領土を分割され、一時期的に国は消滅してしまいます。
そして、長い間においてポーランドの人々は反ポーランド主義の中、差別され、抑圧されてしまいます。
つまり、❷形態の方が、公益における結果評価に曝される存在があるだけ、ない❸形態よりは遥かにマシということです。
よって、Ⓐにおけるエーリヒ・フロムが表現した自由からの逃走といわれる民主国家➡独裁国家の動きを抑えるための課題は、民主国家が民主主義から派生する結果的客観的評価システムを質的にも高く、強固に整備・作用させることが主題となります。
それには、先進国の中でも民主主義指数の高い国(スウェーデン等北欧諸国、ドイツ)と、低い国(韓国、日本、アメリカ)との比較をみれば解決策がみえてきます。
民主主義から派生する結果的客観的評価システムを反映する政府のコントロールを阻害するグループ主義的要素が強ければ当然、その結果的客観的評価システムの作用は弱いものとなります。
韓国における財閥、日本における特別会計制度、アメリカにおけるロビー活動などがそれ相当します。
対してスウェーデンでは企業献金などが極めて少なく、政治活動資金は主として国庫から支出されるため、政府のコントロールを阻害するグループ主義的要素も極めて薄いものとなります。
また他の野党との対比・選択肢の豊富さが民主主義から派生する結果的客観的評価システムの機能の充実度に直結しており、マニフェストにより具体的な公約が示され、大半が実行されていることは政権を任されていない野党であっても、政権獲得後のビジョンが把握でき、与党の代わりとなる選択肢になり得ます。
しかし、これはルター派プロテスタント国の特有の環境下だからできることとも言えます。(詳しくはこちら)
これをシステム的に根付かせる考察についてはこちらを参照して下さい
ドイツにおいては官僚組織が結果的客観的評価システムのコントロールから乖離しないために、各自政党会派に属させ、政党の得票率に比例して高級官史が割り当てられるようにするとともに、一時休職制度を取り入れ、職業上級公務員を強固な身分保障、生涯保障の下採用し続けることによって、回転ドアなどにより癒着が形成するグループ主義が、民主主義から派生する結果的客観的評価システムを阻害することを防止しています。
このドイツの制度は正にアメリカの猟官制度のいいとこどりの改良版ともいえ、グループ主義を阻害すると同時に結果的客観的評価システムの作用を深く浸透させる役割を果たしています。
既に強固に形成されているグループ主義に対してはどう対処していくかはまた別記事(詳しくはこちら)で考証していきます。
次にⒷ独裁国家の民主国家に対するプラス面に関して考察していきます。
独裁国家の民主国家に対する唯一のプラス面といえるのが政治的エリートが他の職種より待遇面においても最も優れた待遇を受けるという点です。(詳しくはこちら)
優れた政治的知識と素質を持つものが恵まれた地位・権限・待遇を得る、これは特に政治が最も社会の利益と直結する分野であることを考えると社会利益主義的観点では、最優先事項と言ってもいい事柄と言えます。
優れた待遇によって、優れた人材が集まります。
政治的エリートが他の職種より社会の利益において最も重要な職種である以上は、待遇面においても最も優れた待遇を受けることは、 公益という観点においては極めてあるべきことと言えます。
しかし、これらが実際なされているのは、共産主義国家や独裁国家に多く、民主主義国家にはあまり見られません。
民主主義国家ではポピュリズム的に政治的知識・経験の薄い人物が政治家として選出されることがよくあります。
この優位点があるがゆえに、国力的に独裁国家が民主国家を凌駕することが少なからず、起こってしまうのです。
この記事の初頭に述べた様に、歴史的に見て、大体の国々は国力が増大した国を右倣え右的に模倣する傾向にあります。
この問題を放置して、この記事の課題である『民主国家が独裁国家にならないためにはどうすべきか?』を解決することはできません。
また、この独裁国家の民主国家に対する唯一のプラス面は強固に形成されているグループ主義に対する対処法とも深く関連しています。
フランスは民主主義国家でありながら、独裁的国家の持つ唯一の長所と言えるこの性質を併せ持つ稀有的な国家と言えます。
カトリックの影響による、利益を不浄のものとする反資本主義的精神やカルバン派諸国に比べて勤労性の低い国民性を持ってしても、20世紀末期まで世界4位の GDP を維持していた所以と言えます。
条件的客観的評価システムであるメリットシステムが強く作用している官僚組織が主導する政府が、民主主義から派生する結果的客観的評価システムの修正を受けながら資本主義体制の下で経済をより良い方向性にイニシアティブを持って誘導することは、他の先進国と比較しても客観的評価システムの充実度合は高い状態であると言えます。
しかし、これは条件的客観的評価システム全般に当て嵌まることながら、時間が経るに従って、強力であればある程、そのシステムをクリアした集団によるグループ主義が形成され、それが同程度の強力な結果的客観的評価システムによって制御・修正されてなければ抑えることは難しくなります。
フランスにおける条件的客観的評価システムであるメリットシステムの下では、日本以上に天下りが蔓延り、加えて首相、パリ市長、会計検査官の兼職の様に政治分野に転出しても、元の官僚の身分が保証されるなど、極めて官僚グループは優遇されており、メリットシステムの質の問題はともかく、その影響力は極めて強いものとなります 。
それに対して、それを制御する民主主義から派生する結果的客観的評価システムは他決思想の土壌であることと大統領が強い権限を持つ半大統領制であることから比較的弱いものになっていました。
半大統領制でも、ワイマール共和国の共和国後期のドイツの様に、大統領が政党に所属してなかったり、議会の過半数の支持により成立する首相と内閣が存在しなかったものに比べると遥かにましではありました。
しかし、他の半大統領制の国々は実質的には議院内閣制に変化している中、フランスにおいてはコアビタシオンの様に大統領と首相が別政党の出身者が就くなどの状態が生まれ、権限の強い大統領と首相・議会は対立し、国家の運営に大きな支障をきたす場合も多々ありました。
強い条件的客観的評価システムに対し、弱い結果的客観的評価システムであることから、メリットシステムが生み出したグループ主義が制御不十分な状態で増大して行き、右派政権であろうと左派政権であろうとフランスの政治を牛耳っているのはエリート官僚のグループ主義であり、それらの状況を改善するための選択肢を国民が選ぶことが難しくなってきます。
新党に期待するか、極右的な政党に支持が流れるかどちらにしても、民主主義から派生した結果的客観的評価システムが効きにくくなり、悪循環に陥ってしまいます。
よって、この独裁国家の民主国家に対する唯一のプラス面といえる政治的エリートが他の職種より待遇面においても最も優れた待遇を受ける強い条件的客観的評価システムを導入するには、同等以上に強い結果的客観的評価システムで補完することが必須事項となって来ます。
これのヒントとなるのが、独裁国家でありながら強い条件的客観的評価システムを複数の結果的客観的評価システムで制御し、官僚が指導する官僚主義国家でありながら、官僚の弊害、権力の集中にアジアの中で最も毒されていない国との評価を得、腐敗認識指数や国際競争力も常に世界最良のトップクラスを維持し、継続した発展により、小国でありながら、世界の最先進国としての地位を築き上げたシンガポールです。(詳しくはこちら)
つまり、この独裁国家の民主国家に対する唯一のプラス面である強い条件的客観的評価システムを導入するに当たっては、民主主義から派生する結果的客観的評価システムの作用を高めることはもちろんのこと、それとは他種(民主主義から派生するものとは違う種)の結果的客観的評価システム(シンガポールで導入されている公務員給与が GDP と連動しているシステムやエージェンシー制度・NPRなどの業績評価等)も作用させることが必要不可欠であるということです。
また他種の結果的客観的評価システムは民主主義から派生する結果的客観的評価システムの作用を高めることにおいても重要な役割を担っています。
民主主義から派生する結果的客観的評価システムを反映する政府のコントロールを阻害する作用を持つ強固なグループ主義に対処する最適ともいえる方法が、②のアプローチと③のアプローチの間を他種の結果的客観的評価システム(シンガポールで実施されている官僚などの賞与と GDP 成長率とを連動させるような)がリンクさせたように、公的利益とグループ主義的利益を同化させることにあるからです。(詳しくはこちら)
客観的評価システムを十分に機能・作用させることは、当然のことながら、格差がつき、どこかが力を持つことになります。 財閥? 軍産複合体? 民間? どこが力持つことが望ましいでしょうか?
どうせなら民主主義から派生する結果的客観的評価システムが作用し且つ公益と最も密接にしている官僚組織が望ましいといえます。
シンガポールのリークアンユも日本を手本としていた時代において、日本を世界第二位の経済大国に伸し上げた優秀な官僚組織は天下り先を構築すれば出世するという負の結果客観的評価システムによって残念ながら変容してしまっていますが、本来は世界に誇れる極めて優れた組織といえます。
いくら優れた組織でも置かれているシステム・環境が劣悪であれば劣化するのは当然です。
シンガポールのようなプラスの結果的客観的評価システム下であれば日本の優秀な官僚達であればどれだけの働きをするか想像もできないほど期待が膨らむのは自分だけでしょうか?
官僚組織をどう縛り、減退させ、骨抜きにし、権力を奪うかに固執し過ぎると、ではどこが実権を握り、舵取りを取るのかという問題がクローズドアップして来ます。
アメリカ・韓国のように民間の軍産複合体や財閥でしょうか?
上記のドイツのシステムを導入して民主主義から派生する結果的客観的評価システムを強く作用させ、かつ加えて他種の結果的客観的評価システムも活用することによって公的利益と官僚組織のグループ主義的利益を同化させる工夫をすれば、日本は必ず失われた平成の時代を取り戻し、令和維新を成し遂げることができると確信しています。